さぁ、みなさんご一緒に~!

Tという元生徒2007年11月18日 13時53分


Tと初めて会ったのは、彼が幼稚園の年中組に
なるときだった。小さくて、頭ばかりが異常なほど
大きく見え、アンバランスだな…というのが第一印象。

Tは恥ずかしがり屋で口数が少なく、あいさつも返事も
なかなか上手くはできなかった。でも努力家で、ピアノの
練習も宿題も地道にこなしてきた。何より、とても繊細な
演奏をし、私の好きなタイプの生徒の一人だった。


彼にはKという兄がいた。Kもまた、私の生徒だった。
ふたりは全く違う性格で、仲はあまりよくなかった。
Kは高校受験前までレッスンに来ていたが、彼自身と
しては納得のいく進学ではなかったらしいことを、後に
なって母親から聞いた。

Tが中学生になる直前、母親と二人でレッスンをやめる
あいさつに来た。彼は母親に促されて「ありがとう」とだけ、
やっと言った。母親によれば、兄のKを見ていて、中学では
勉強が大変そうなので、それでピアノをやめると言い出した
ということだった。ピアノが嫌いなわけではないし、私との
相性も悪くはなかったのでとても残念だったが、引き止める
ことはしなかった。
私に丁寧なおじぎをくり返す母親をせかすようにして、彼は
帰ろうと玄関を出た。それなのに、私をふり返りふり返り、
バイバイと手を振り、泣き出しそうな顔で行ってしまった。


「本当に大変かどうか、少し続けてみようよ」と、引き止めて
みればよかったかな…とTを思い出すたびに考えた。

                              つづく

続・Tという元生徒2007年11月18日 23時17分

昨日の朝8時前、Tの家の前にパトカーが2台、
駅前の派出所のバイクが2台、刑事さんが乗って
きた乗用車が2台、後から白い大きなワゴンが
1台やってきて停まった。カーテンは全部閉まって
いて、警官が3人ほどで家の周りを歩き、刑事さん
らしき人もまた3人で玄関を出入りする。他にも
警察官の姿が幾人も見えて物々しい。

T家の向こう隣の人が「下の子みたいよ…」と言う。
下の子って、Tだ。彼が暴れているらしいって。

そのうちに白い大きなワゴンがT家の玄関前に
ぴったり着けられた。9時半過ぎ、車が動いた。
ワゴンにはTが乗っていたのだろうが、中の様子は
見えない。車列の最後には彼の母親の車が続いた。

Tは今年の夏で21になったはずだ。

中学入学以来、彼の姿を見たのはほんの数回しか
ない。高校は希望通り近くの公立校に入ったらしい。
その後は東京でアパートを借り、専門学校と聞いた。

「暴れているらしい」って、警察の車が何台も来て
2時間近くもかかって、何がどうしたというのだろう。
子どものころのTしか知らない私には、とっても
ショックなことだった。